上位蜃気楼シミュレーション(superior mirage simulation)


2014.04.12. 琵琶湖地域環境教育研究会 松井 一幸

1.上位蜃気楼シミュレーション手順のまとめ

基本的には下位蜃気楼シミュレーションで開発したホイヘンスの原理による光の経路計算の手法と同じです。

①地球の丸さを考慮するのに湖面方程式を用いた。
②大気の気温分布t(x,y)のモデルを設定する。ここではt1,t2,H,Dのパラメータでモデル化を行った。
 ここに、t1は境界層上部の気温、t2は下部の気温、Hは境界層の高さ、Dは境界層の幅。気温分布の定式化と解説
③大気の屈折率の空間分布n(x,y)を設定する。ここでは気温変化を通じてモデル化した。
④光の経路を微小区分に分割し、ホイヘンスの原理を用いて次の区分の光路を定め、初期視角θ0から実景視角θRを得た。
⑤θ0とθRの関係を表す蜃気楼曲線(mirage curve)を作成する。この逆関数を作成すると、上位蜃気楼の物理的意味がよく理解できる。
 下位蜃気楼の場合には逆関数はグラフの右下に現れるが、上位蜃気楼の場合には左上に現れる。このグラフが実景画像から上位蜃気楼画像を作る指南書となる。
⑥上位蜃気楼シミュレーションを行いたい実景の画像を用意し、その中に観測点から観た時の視角を1分単位で目盛として位置づける。
 今回の計算モデルでは、水平方向(横方向)は一様と考え、鉛直方向の蜃気楼曲線(mirage curve)のみ作成した。
⑦蜃気楼曲線(mirage curve)に基づき、θ0に対応する実景画像の縦1dotの線画像を、θRに対応する位置へ縦1dotだけコピー・ペーストする。
⑧この作業は、θ0=-6分から始め、0.02分刻みで+18分まで1200回コピー・ペーストの画像処理を繰り返す。
⑨一連の作業を終えると、実景画像は上位蜃気楼画像に変化する。
⑩⑤の過程の中で上位蜃気楼時の湖面進入視角θsを決めることができるので、この視角を避けて蜃気楼曲線(mirage curve)を算出した。
 蜃気楼曲線(mirage curve)を調べると、上位蜃気楼の場合にも折畳線(fold line)に相当する極値が複数存在することが分かった。
⑪シミュレーション結果と実際の上位蜃気楼観測画像と比較し、良く合うパラメータ値(t1,t2,H,D)を見つけて、その物理的意味を吟味する。
⑫上位蜃気楼の刻々の動的な変化は、境界層の高さ(H)の変化に依るところが大きいことが分かった。
 境界層のダイナミックな変化を追跡することにより、その生成・持続・消滅のプロセスを明らかにできると思われる。
⑬一連の計算に当たっては、WindowsXPのパソコンでVisualBasic2008を用い、倍精度で行った。

2.開発プロセス

■第1報(2014.3.6)
下位蜃気楼から発展させ、上位蜃気楼をシミュレーションしています。
時間がないのできちんと整理できていませんが、第1弾HPを作成しました。
注1)シミュレーション画像は、逆転層の高度の設定が大きいものから掲載しています。
 これは琵琶湖において展開される上位蜃気楼の時系列に対応していると思われます。

■第2報(2014.3.7)
注2)下記1と3の経路・蜃気楼曲線については一部間違いのため追加・訂正しました。

■第3報(2014.3.8)
①気温の自然降下(100mで0.6℃)だけを考慮した場合の光の経路・蜃気楼曲線・気温変化のグラフ →番号②
②大きなZ型蜃気楼のシミュレーションに気温の自然降下を考慮した。
   (1)シミュレーション画像、(2)光の経路・蜃気楼曲線・気温変化 →番号4
③堅田方面をシミュレーションしてみました。
   (1)琵琶湖大橋が番号3の大きなZ型になっているとき →番号9
    (2)就航船が倒立している番号6のとき →番号10
④琵琶湖大橋中央部に就航船が逆転している番号6の光の経路・蜃気楼曲線・気温変化のグラフ →番号6右

■第4報(2014.3.9)
①上位・下位蜃気楼の共存が十分に可能であることの一例を示しました →番号11
   (1)シミュレーション画像、(2)光の経路・蜃気楼曲線・気温変化
    気温変化t(x,y)については、t(x,y) = t_normal(x,y)+t_superior(x,y)+t_inferior(x,y)で考慮しました
    共存可能な理由:下位蜃気楼は比較的手前の湖面近くを進む経路の光で発生するのに対して、上位蜃気楼は比較的遠方の高くを進む経路の光で発生することによる。
②番号12に下位・上位蜃気楼が共存する琵琶湖大橋をよりワイドにシミュレーションしました。

■第5報(2014.3.10)
①シミュレーションに用いた気温モデルの説明と気温設定の一例 →番号③
 自然降下は100mで0.6℃であるが、この割合を大きくしても下位蜃気楼は生じない。
 対象物の沈みが顕著になるだけであることが分かった。
②太眉毛状の上位蜃気楼の起こる理由を解説しました →番号2
 (1)シミュレーション画像、(2)光の経路・蜃気楼曲線・気温変化

■第6報(2014.3.11)
 実景画像に(実景時には見えない)橋脚台を想定しシミュレーションしました。経路・蜃気楼曲線図も更新しました。 →番号8
 経路図は、沈んで見えない橋脚台が何故見えるかを簡易に説明してくれます。

■第6報(2014.3.12)
①太眉毛状の蜃気楼曲線中の説明図に誤りがあり訂正しました →番号2
②左側の長い橋桁部で上位蜃気楼が起こる理由を解説しました →番号13
 (1)シミュレーション画像、(2)光の経路・蜃気楼曲線・気温変化

■第7報(2014.3.13)
①経路計算時の分割区分Δx、Δyの値を変えて、結果を比較しました →番号④
②湖面近くのexp層における降下定数dと下位蜃気楼の形状と、蜃気楼曲線に見る正立・倒立像の幅変化の考察 →番号⑤

■第8報(2014.3.14)
 気温差で下位蜃気楼がどのように変化するかをシミュレーションし、蜃気楼曲線を元に折畳線(fold line)等の変化を調べました →番号⑥

■第9報(2014.3.15)
①上位蜃気楼を観察目線の高さを変えてシミュレーションしました。上位蜃気楼の時間経過とよく似た結果を得ました →番号⑦
②下位蜃気楼を観察目線の高さを変えてシミュレーションしました。観察結果とよく似た結果を得ました →番号⑧

■第10報(2014.3.17)
 蜃気楼には「exp層(高さと共に指数関数的に気温が変化する層)の存在」が本質的に重要です。この合理性を考察しました →番号⑨

■第11報(2014.3.18)
①上位蜃気楼シミュレーションにおいて境界層の高さをH=18mに固定し、境界層の幅を0.1mから5.0mまで変化させてみました →番号14
②板塀状蜃気楼が生まれる理由を、蜃気楼曲線を用いて解説しました → 番号15

■第12報(2014.3.19)
①ここでの光の経路(RayTracing)計算を用い、異なる手法によるLehn論文の結果と比較しました →番号⑩
②ここでの光の経路(RayTracing)計算を用い、Lehn論文手法の川上・東條論文結果と比較しました →番号⑪

■第13報(2014.3.20)
①川上・東條論文の気温分布をexp層に置き換え、琵琶湖でシミュレーションしました →番号⑫
②目線の高さ(h)を変えたRayTracing表示を湖面の沈み込みを考慮して行いました →番号⑬

■第14報(2014.3.21)
 境界層の幅(D)を変えたRayTracing表示を湖面の沈み込みを考慮して行いました →番号⑭

■第15報(2014.4.6)
 境界層の高さ(H)を徐々に降下させ、沖島民家の上位蜃気楼変化をシミュレーションしました →番号16
 境界層の高さが数mになると湖面の中に帯状の上位蜃気楼が現れました。これは観測結果と一致します。RayTracing図で説明を試みました →番号16右

■第16報(2014.4.10)
①番号5の弱いZ型蜃気楼を再度シミュレーションしました。経路・蜃気楼曲線も追加しました →番号5
②番号7の境界層の高さH=12mを再度シミュレーションしました。橋脚台が上下に出現。経路・蜃気楼曲線も追加しました →番号7
③琵琶湖大橋の上位蜃気楼を境界層の高さ(H)のみ変化させて、シミュレーションしました →番号17
④穏やかな日に琵琶湖大橋に上位・下位共存する蜃気楼を観察しました。シミュレーションで説明を試みました →番号18

■第17報(2014.4.11)
 境界層の高さ(H)を25mから0mまで0.5mずつプログラム的に連続降下させるダイナミック・シミュレーションをVB2008プログラムで成功しました。
 全51画像ステージを、WindowsXPマシンでは230秒、Windows8.1マシンでは85秒で遂行できました。
 プログラムの実行をWeb上では演示できず、報告のみになるのが残念です。

■第18報(2014.4.12)
 第9報②の下位蜃気楼シミュレーションを観察目線の高い方から表示しました。実際の観察結果の一例も加えました →番号⑧

3.研究成果編

番号
説明をクリックすると画像が現われます
なぜそうなるのか解説しています
中央上部がドーナツ状経路・蜃気楼曲線
太眉毛状経路・蜃気楼曲線
大きなZ型蜃気楼経路・蜃気楼曲線
番号3に気温の自然降下(100mで0.6℃)を考慮経路・蜃気楼曲線
弱いZ型蜃気楼経路・蜃気楼曲線
就航船が倒立経路・蜃気楼曲線
琵琶湖大橋は上部が細く出現・その下に橋脚台が上下に現れる経路・蜃気楼曲線
橋脚台が変化経路・蜃気楼曲線
堅田方面(1)大きなZ型になっている番号3と同じ条件
10堅田方面(2)板塀状?就航船が倒立している番号6と同じ条件
11下位・上位蜃気楼共存の一例共存成立が理解できる説明図
12番号11をよりワイドに提供しました
13長い橋桁部だけの蜃気楼経路・蜃気楼曲線
14境界層の水平方向からの移入を想定し、H=一定でDを変化させてみましたシャープだったZが消滅していき実景に近づいていきます
15堅田方面の板塀状蜃気楼の例蜃気楼曲線(逆関数)の意味が理解できれば蜃気楼の神秘が解けます
16境界層の降下と沖島民家の上位蜃気楼変化境界層降下で湖面に帯状の上位蜃気楼が出現④RayTracingによる説明
17境界層の降下と琵琶湖大橋の上位蜃気楼変化経路・蜃気楼曲線。H=25m20m17m14m11m8m5m3m2m1m0m
18下位・上位蜃気楼共存の琵琶湖大橋シミュレーション穏やかな暖かい日に現れた橋脚台(フーチング)の倒立像を説明してみました
番号
計算の基礎的課題を考察しています
考察結果をまとめています
気温分布モデルと番号3・番号7の気温分布逆転層の独自の定式化
気温の自然降下だけを取り入れた光の経路・蜃気楼曲線・気温変化fold lineは出ないが少し落ち込む
用いた気温モデルの説明 番号⑨も参照してください気温設定の一例
経路計算区分Δx,Δyの違いと結果=>(1)(2)(3)(4)(5)(6)Δx=1.00m以下は殆ど同じ結果を得た
(気温差固定での)下位蜃気楼の形状の降下定数d依存性蜃気楼曲線に見る正立・倒立像の幅変化の一考察
(dを固定し)下位蜃気楼の形状の温度差依存性温度差に対する折畳線(fold line)等の一考察
上位蜃気楼を観察目線の高さを変えてシミュレーション相対的な逆転層の下がりで上位蜃気楼の時間経過と良く似た結果を得た
下位蜃気楼の形状の目線の高さ依存性観察写真の一例蜃気楼曲線(mirage Curve)を用いて、折畳線(fold line)と湖面の幅を検討しました
(気温分布)exp層の存在と設定の合理性を解説exp層の存在仮定が観測事実に合うシミュレーションに導きました
RayTracingを行い異なる手法のLehn論文との比較を行いました大枠は合いますが細部では少し異なるようです
Lehn論文と同一手法の川上・東條論文との比較を行いました極めてよく似た結果を得た。今回の手法の正しさを証明できたようだ
川上・東條論文の気温分布をexp層モデルに置き換えました琵琶湖大橋でシミュレーションを行いました琵琶湖で似た形を観測しています
RayTracingに湖面の沈みを考慮h=1m3m6m9m12m15m18m20m25m⑪⑫よりも光の進路が自然に思います。黄線:境界層、青色:湖面
RayTracingに湖面の沈みを考慮D=0.05m0.1m0.2m0.5m1.0m2.0m5.0mDが大きくなると境界層はぼやけます。黄線:境界層、青色:湖面

4.蜃気楼観測編

琵琶湖大橋上位蜃気楼観測の一例(筆者撮影)
ビワコダスHP「北湖の蜃気楼情報」(筆者撮影)

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