上 位 蜃 気 楼 に つ い て
(Updated 2019/05/07)
上位蜃気楼が、遠方の物体や景色を我々に見せてくれる可能性のある蜃気楼です。しかしながら、
せいぜい数十キロ先程度です。通常は10km前後の景色や物体が蜃気楼化します。例外として、大気
層がノバヤ・ゼムリァ効果とかダクティング効果とよばれる屈折状態にあるとき、光は数百キロ遠方
の光景を蜃気楼として見せることがあります。
この状態は特殊なので、滅多に起こりません。ですから、「富山湾から朝鮮半島が見える」といっ
たことはあり得そうにもありません。琵琶湖でも富山湾でもふだんから見えている物が蜃気楼となっ
ているのです。
このタイプの蜃気楼像は元の姿を全く想像できないほどになることが多いので、普段の景色など見
なれていない人には大いに想像力を掻き立てることになります。ですから、見ている人間には何が見
えているのか判らず、自分自身の頭の中で解釈するしかないので見誤りというか解釈違いが多いので
す。
上位蜃気楼には、春の蜃気楼、浮上蜃気楼、ヴィンスの現象、ファタモルガーナとも呼ばれます。また、
日本でも昔から喜見城、蓬莱、狐の森など色々な呼び名があったようです。昔の日本では、現在と違っ
てこの蜃気楼が発生しやすい環境条件だったのかもしれませんし、浮島・浮景現象や逃げ水現象を指
していたのかもしれません。
蜃気楼は生活、産業、災害などと無関係なために、日本各地で調査されていないので情報がないだ
けかもしれません。近年、蜃気楼に興味・関心を持つ方々は増えてきたため、魚津(富山湾)以外に
琵琶湖周辺、富山湾周辺、北海道の各沿岸、猪苗代湖周辺、伊勢湾周辺、大阪湾周辺、九十九里浜な
ど日本各地で上位蜃気楼が確認されてきています。
【上位蜃気楼の発生する環境】
1.大気の温度について 通常、大気は地面から高くなるにつれて100メートルにつき、約0.5~0.6℃の割合で温度が下がる
(対流圏内)とされています。しかし、蜃気楼が発生する場合、前述の内容とは逆の現象がが起こ
っています。つまり、“水(地)面付近の大気の温度が一番低く、上方に向かって大気の温度が上昇
していく”という大気の層(逆転層)があるときです。もっと分かり易い表現で言えば空気の層
が“上暖下冷”の温度構造である時といえます。空気の場合、温度が低い程空気の密度が高く、温度
が高い程空気の密度が低いということが分かっています。
光は、より密度の高い方へと進路を変えていきますから、この場合は上に凸の弧を描いて進むこ
とになります。魚津の場合、春先の雪どけ水が富山湾に流れ込み、海面付近の大気が冷やされて、
暖気との間に逆転層を造るとわれています。しかし、琵琶湖の南湖の観測から、雪どけ水の影響や
蜃気楼が発生する状態などからも、この説に合わない部分があります。富山湾と琵琶湖では逆転層
をつくるメカニズムが違うのかもしれません。局地的気象要素の影響が多分に考えられます。
なお、上位蜃気楼は海(水)上にだけ発生するわけではありません。逆転層が存在していれば内
陸でも発生する可能性があります。“山の蜃気楼”がその代表例です。外国のある地方では、ダンシ
ング・マウンテンとよんで天候の予測などに利用している民族もあそうです。
日本では、写真などの確固たる証拠で残っているのは1989年1月6日に長野県の飯盛山中腹で、
浅間山などの山頂付近が上位蜃気楼化した様子を埼玉大学地球科学科教授と埼玉県立高校の教員が
目撃し、写真におさめています。大変珍しい記録です。
蜃気楼発生予測はそう簡単にいきません。琵琶湖では過去4月に6日間連続発生したり、2月に
2回発生したり(いずれも魚津ではこのような観測例はありません!)ということを当研究会で記
録しています。まだまだ、琵琶湖での調査・研究の余地がありそうす。
2.気象条件について 蜃気楼の発生する日は、朝方は寒いが日中に暑くなる場合が多いようです。これに相当する気圧
配置が春先(4月~5月)の“移動性高気圧”に日本が覆われる場合です。また、発生時刻は午後から
が多いようです。
しかし、午前中からや夕方から発生することもあります。また、この蜃気楼像が現れている時間は
まちまちで、数分の時もあれば4時間以上も発生し続けることもあります。このような日は、穏やか
な一日で風も弱く、気温も初夏を思わせるほど上昇します。この時期には“水温より気温が高い”ので
水面付近の冷気と移流してきた暖気との間で逆転層ができるものと思われます。しかも、風が弱いの
で逆転層の生成を妨げない好条件でもあります。
天候は、晴ればかりとは限らず、曇りでも、今にも雨が降りだしそうな日にも蜃気楼は現れます。
つまり、逆転層ができれば蜃気楼が見られる可能性が大きいということで春先以外でも可能性は少
ないながらもあるわけです。しかし、春先の4月から5月にかけての蜃気楼発生好条件には、かな
いません。
3.(上位)蜃気楼像について この蜃気楼像は元の物体の上に現れます。何故なら、空気が上暖冷の層である時、物体から出た光
は上に凸の弧を描いて観察者の目に入ってくるからです。人間の目には光が入射してきた方向に像
(例えば、上に倒立した像など)が見えてしまうのです。(図3)
その結果、(上位)蜃気楼像は元の物体の姿を伸ばしたり、縮めたり、浮き上がらせたり(浮島現象
の浮き!とは異なる)、上方倒立像を含んだ2像や3像(3像以上もありえます。)などに見えます。
(図4)
また、上記の例が複合していることがほとんどですから元の姿の想像は困難です。そして、生き物の
ように形を次々と変えていきます。その上、その像は色が抜けたかのような淡い色になっています。逆
転層内で温度差がありすぎると縮んだ像になりますが、よく見ないと気づかない場合が多いと思いま
す。普段から遠方の景色などをよく知っておくことが大切だということです。空気が澄んでいると肉眼
での判別はできますが、こんな状態のよい日は年に数回ほどです。日本では水蒸気が視界の妨げの原因
となっています。
より詳しい様子を見たい!とお考えなら“双眼鏡”や“フィールドスコープ”が必要になります。
4.上位蜃気楼の見られる距離について はじめにも述べましたが、観察者の10km前後に上位蜃気楼がよく見られます。では近い距離では何
メートル先に見えるのか?というと、琵琶湖では4km前後に見えることがあります。日本国内の場合
も同様と思われます。通常自然が造る温度差はそれほどないので、光が屈折して蜃気楼像を創るのに
は、ある程度の距離が必要になります。また、低い位置からでないと見えない!こともお忘れなく!
上位蜃気楼を探すのなら、見通しのよい所からより低い位置で遠方10km前後などを探してみて下さ
い。
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