山の上位蜃気楼(北海道)
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【陸地で出現する蜃気楼=山の上位蜃気楼について】 蜃気楼といえば、海上に現れる様子がイメージされますが、陸上でも蜃気楼は発生いたします。山の頂付 近が上位蜃気楼化し目撃されることがあります。その目撃報告は、海外で昔から多数あるようです。なかで も、昔からある民族は山の上位蜃気楼を「ダンシング・マウンテン」と呼び、天候の変化を予測などに利用
していたという話もあります。日本における山の蜃気楼に関して、昔の記録は定かではありませんが、写真による決定的な出現証拠と しとて残る記録は、「昭和64年1月6日午前9時頃、長野県南佐久飯盛山から見て浅間山などの山頂付近 が上位蜃気楼化していた」というものがあります。目撃・写真撮影をされた方は埼玉大学地球科学観測実験 室の高橋忠司さんと埼玉県立高校の西川正己さん(何れも当時)です。後に気象学会で報告され 『朝日新 聞』に山の蜃気楼写真が紹介されました。 日本では、山の蜃気楼の目撃は大変珍しい部類に入ると思います。今回、『北海道新聞2001年1月10日 付朝刊』に掲載されました「日高山脈に蜃気楼、札幌・手稲山から撮影」という記事をネット検索で知り、 撮影者の北海道札幌市在住の中谷輝千代さん(53)に連絡をとり、貴重な写真をご提供していただきました。
【札幌市手稲山より目撃した蜃気楼】
上図に示しますように、2001年1月日北海道札幌市内の手稲山(標高1024m)から100km以上離
れた「大雪山、十勝連峰、日高山脈」などの山頂付近や太陽が伸びたり、板塀状になったり、上方倒
立したりした像が目撃されました。写真撮影に成功された方は、札幌市内在住のアマチュア写真家の
中谷輝千代さん(会社員)です。
今回は、中谷さんの全面的なご協力により大変珍しい「山の上位蜃気楼や太陽の上位蜃気楼を当
HP上で掲載することができました。尚、発生時の様子は、いただいたコメントを元に原文に忠実に
記しました。また、紹介する全ての写真は中谷さんが、撮影されたものです。
蜃気楼像の写真を筆者が、解説をしました。(写真撮影時刻は、中谷さんの撮影データより)
日高山脈の実景
日高山脈の上位蜃気楼1
山脈の稜線付近が、伸びだしてきています。よく見ると、写真中央より左右の「山頂」に上方倒立像が見えだしてきています。
(2001年1月9日9:00AM撮影)
日高山脈の上位蜃気楼2
写真中央から左の山頂が、水平になってきています。これは、本来の山頂像に、「伸び」と「上方倒立」が複合された為です。 (2001年1月9日10:48AM撮影)
日高山脈の上位蜃気楼3
上の「日高山脈の上位蜃気楼2」と比べて、この写真では、山の稜線がより「水平化」されて、「板塀状」のように見えます。右側の山には、2像や3像の蜃気楼像が明確に分ります。物体が水平な「板塀状」に見える現象は上位蜃気楼の特徴的な像の一つです。
(2001年1月9日11:00AM撮影)
日高山脈の上位蜃気楼4
山脈全体が、伸びて水平になっているのは前出の写真と同じですが、この写真は特に、「山の稜線が凹凸化」して見えます。この写真のように物体が「矩形波(凹凸)」のようにに見える場合も、上位蜃気楼像の特徴的な像変化です。 (2001年1月9日11:32AM撮影)
大雪山と十勝連峰の実景
大雪山の蜃気楼
大雪山の山頂付近が垂直に伸びて見えます。よく見ると、「伸び」と「倒立」とが複合され、合体して「垂直」に伸びて見えているのです。所々に、「伸び」の他に「2像」や「3像」と見える像が見えます。 (2001年1月9日10:45AM撮影)
十勝連峰の蜃気楼1
この写真は、普段から十勝連峰をよく見慣れていないと、遠方の風景なので「蜃気楼化」していることを見落とす場合があります。よく見ると、山の稜線が「不自然な水平」になっています。物体の(山頂の)形状によって、部分的に伸びたり、水平になったりしてみえます。これは、山のどの部分に、「気温の逆転層」があるかや、観察する人が、どの高さから気温の逆転層を通して山々を見るかによって変わってきます。また、山(物体)と観察者の距離によっても変わってきます。 (2001年1月9日10:45AM撮影)
十勝連峰の蜃気楼2
「十勝連峰の蜃気楼1」の写真と比べると、ほぼ同じ部分を撮影していますが、山の稜線が全体的に水平になって見えています。この場合も「伸び」や「倒立」などのが複合してこの写真のように見えます。蜃気楼像は、時間とともに変化します。 (2001年1月9日11:00AM撮影)
■ 太陽と山の蜃気楼
太陽と山(日高山脈)の上位蜃気楼
日の出の「太陽」も上位蜃気楼化して3重以上に見え、山の山頂(写真左の2つの山頂)が水平になって見えます。私は文献やテレビ番組『蜃気楼の王国(テレビ東京製作)』で、山の蜃気楼や太陽の蜃気楼を見たことがあります。しかし、中谷さんのお写真のように、太陽と山が蜃気楼化している写真は、初めてです。貴重な記録写真だと思いますし、芸術的な写真でもあると思います。 (2001年1月9日7:05過ぎ撮影)
太陽の上位蜃気楼1
太陽が、日高山脈からその姿を現わした直後(7:05頃)の様子。太陽が3重像以上に変化しています。
太陽の上位蜃気楼2
太陽が四角に変化しています。
太陽の上位蜃気楼3
太陽が日高山脈より昇りきった後も、蜃気楼化しています。「瓶(カメ)」を逆さにしたように見えます。
■ 山の蜃気楼発生時の様子 ※ 中谷 輝千代さんからいただいたアンケートをもとに、原文を考慮してまとめた蜃気楼発生時 の様子です。
1)手稲山山頂から目撃した蜃気楼の発生時刻について ・ 2001年1月9日6時30分頃 (日の出前に撮影した山の写真に、蜃気楼化が見られたので) |
2)蜃気楼の消滅時刻について ・ 2001年1月9日12:00頃。 |
3)発生当日の天候・気象状況について ・ 当日は「曇り」で、風は「無風に近い南東(SE)の風」でした。 |
4)撮影倍率について ・ ペンタックス67、SMC67-200ミリ、テレコンバージョンレンズ×2を使用。 |
5)撮影場所及び蜃気楼化した物体の所在地について ・ 札幌市の手稲山(標高1024m)の頂上より、北東方向の大雪山や十勝連峰、南東方向 の日高山脈を撮影。(何れも、手稲山より約150km以上離れています。海(湖)上とことな り、百キロmを超える遠方の蜃気楼です。筆者) |
6)札幌での蜃気楼の発生頻度と発生しやすい気象状況について ・ 今回の日高山脈の蜃気楼は、2回目です。3年前の3月下旬にも手稲山山頂から日高 山脈の変形が認められました。その時は、夕方で太陽を撮影していたので気にしていまし たが、撮影はしていませんでした。しかし、この時の日高山脈の様子が頭から離れずにい ました。 |
7)蜃気楼写真についての簡単なコメント ・ 当日は、薄明の段階から日高山脈の稜線に変化が見られ、日高山脈から昇る(7:05) 太陽も変形(上位蜃気楼)が明確に分りました。 |
8)蜃気楼の発生原因について(筆者の見解) ・ 『北海道新聞(2001年1月11日付朝刊)』に中谷さんが撮影された蜃気楼の記事の中 で『同日午前9時の地表気温は、札幌で-10.4度。同山脈手前の夕張地方は同20度 以下に冷え込んだ。一方、上空1500mには同8.5度の比較的暖かい空気があった(以 下省略)』とあることから、放射冷却により「気温の逆転層」ができたと思われます。つまり、 上位蜃気楼を発生させる「上暖下冷の空気の層」ができたので、蜃気楼が出現したという ことです。ただ、手稲山山頂からの目撃した高さや各山々までの距離など絶妙な位置に中 谷さんがおられたので、蜃気楼が目撃できたのです。放射冷却は冬季や春先に生じやす いので、まだまだ手稲山で蜃気楼が目撃できるかも知れません。また、この時期「蜃気楼 観察にベストな位置」にいれば、北海道に限らず、上位蜃気楼を目撃できる可能性がある と思います。 琵琶湖や富山湾では、海(湖)上十数キロ前後前方によく、上位蜃気楼が発生します。今 回の山の蜃気楼は、100km以上前方ということなので「遠方の蜃気楼」といえます。 |
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