ヒアラシ考(1)
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第1部 ヒアラシの正体について
第2部 その他の湖西の風と天気
第3部 ヒアラシの重要性について‥‥先人の知恵
第4部 気象学的にみた「ヒアラシ」
1990.01.05.湖鮎ネットにUpしたもの
琵琶湖地域環境教育研究会 松井 一幸
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☆------------ BD21 [5790]AYU0169/1990-01-05 16:43:38/#6435 --------------
気象と伝説>ヒアラシ考 <KOMATU
正月休みにおける貴重な対話の中から,ヒアラシに関するいろいろな情報を集めることができました.ここに途中報告ではありますが,冬の湖西地区の気象に大きな影響を持つヒアラシについてまとめてみたいと思います.
この報告は,以下の人々の意見をまとめ,筆者が論理的に再構成し直したものです.
Aさん(73才:北小松在住,漁師の経験あり)
Bさん(62才:今 津在住,現在漁師)
Cさん(年齢70才程度:打下在住)
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第1部 ヒアラシの正体について
1.ヒアラシとは何か?
「ヒ」は,お天気,気象の意.日からきているのか.「アラシ」は荒す者という意味.「シ」は,ヤマアラシ,エ-カッコシ-等で使う「~する者」の意に思われる.従って,「ヒアラシは,「天気を荒す者」という意味をこめた地方言葉であろう.
結論1 ヒアラシ = 天気(日)を荒す立て役者
2.いつ頃吹く風か?
11月から3月にかけて,冬場に吹く.
3.どちらから吹く風か?
南東~南西の方向(琵琶湖の南部)からやってくる風である.
和 迩では,琵琶湖大橋方面.
北小松では,三上山方面.
今 津では,舟木方面.
4.どのような影響をもたらす風か?
天気が荒れていないのに,琵琶湖の南部からやってくる冷たい風で,波は比較的小さいが,風が強い.この風が吹いているときは,天気はどんよりしている. この風は,陸の中(集落)に上ってしまうと,気づかない場合もあるが,湖辺に立つとその冷たさで,じっと立っていられないくらい冷たい風である.
この風が吹いた後は,天気が次第に荒れ始める.(ヒアラシは天気を荒す序曲)
5.ヒアラシの吹いた後の天気は?
風は次第に北西の方へ向きを変え強さを増す.これを,「ヒアラシのかえし」という. この北西からの風を,ニシカゼ,ニシ,ニシビアラシと呼んでいる.標準語で言う「比良下ろし」となる.
一般に,「比良下ろし」が吹くときは,これが乾燥した強風のため,湖西地方は天気が良いときが多い.ヤケオから風が降りてきている間は,小松地区では,雪は止むのが普通である.
<雪の降るパタ-ン>
A.ヒアラシが3日吹くと,その後は雪か雨.(ヒアラシすぐ雪型)
B.西風がある程度吹き荒れ,止むと,この後に雪をもたらす.(ニシビアラシ後雪型)
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第2部 その他の湖西の風と天気
1.カミ(南)から吹く風
冬 ヒアラシ 天気を悪くする(前述)
春 カミノクチ,ナガセ 暖かくなってから吹く風,天気が続く
夏 トイテ,サキ 3日吹くと日よりになる
<特徴> 南からの風は,夏は天気を良くし,冬は悪くする
南からの風は,浜辺の砂を北へ持って行く
後述のイブキと比べると波の振幅,波長共小さい
「カミから降りた」というと,三上山方面の岸の根が真っ黒になる.天気が荒れて来る
2.北東から吹く風
イブキ:伊吹山の方から吹いて来る
波が非常に大きい(理由:対岸までの距離が大きいから)
砂を浜へ持って来る
3.山からにわかに吹いて来る風
ボラ,ハヤテ,オチカゼ,フキシバキ
これらの風は,季節にあまり関係ない
吹き始めるとき,山に細かい雲が舞い上がる
4.台風(西側を通る大きなもの)のとき
始 め:イブキ 伊吹山方面から
中 :スグチ 沖ノ島から
終わり:カミ 風がカミ(南)へ回ると台風が止む
5.北から吹く風
マキタ 雪に関係あり
カツノ 波が小さいが嵐が強い
5.風の強度と波
対岸までの距離があるほど,波は大きくなる
和迩や堅田では,風が強くても嵐が無く,波が小さい
北西の風は,湖西においては波は立たないが,一つ間違うと舟を沖へ流されてしまう
北小松においては,伊吹山の方からくる波は大きいが,三上山の方からくる波は小さい
明神崎,舟木崎を回ると,波や風が変化することが多い
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第3部 ヒアラシの重要性について‥‥先人の知恵
以前にUPした「ヒアラシ」に関する報告に,根本的な間違いがありましたので,まず最初に,この場を借りて,訂正したいと思います.お許し下さい.
筆者が,初期の段階で,「ヒアラシ」と「比良下ろし」を同一のものと解釈するという先入観を持っていた為,致命的なミスを犯してしまいました.
ヒアラシは,当初(高校当時から)考えていた「比良下ろし」がなまったものではありませんでした.今日の第1部で報告したように,「天候を荒すまえぶれ者」であった訳です.今回の調査でこのことがはっきりしました.
この観点に立つと,気象学的観点や,文献,漁師さんの語り等が,矛盾なく首尾一貫してきます.
天気予報の無い昔にあっては,ヒアラシは,冬場における「天気予報の要」であった訳です.(ヒアラシは天気の予言者的正確を持っていた)
一方,比良下ろしは,風が西に回った結果であり,「天気をみる」ための手段とはならなかったのです.
ここに,天気の予言者としての,「ヒアラシの地域的意味」が存在すると思われます.因果関係を見抜く先人の知恵が,「ヒアラシ」の役割に注目させたものと思われます.
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第4部 気象学的にみた「ヒアラシ」
冬場の琵琶湖における南風‥‥これがヒアラシなのですが‥‥は,気象学的にみて,どの様な意味を持っているのでしょうか.
門外漢の出る幕ではありませんが,低気圧が近付く時の,温暖前線に伴う南風に思われます.これが通過すると寒冷前線の影響下に入り,北西の風が強まります.
では,冬の温暖前線による南風は何故冷たいのでしょうか.琵琶湖上を越えてくるからでしょうか.この辺になるとよく分からないのです.
12月の28日頃に浜へ行くと,三上山の方から冷たい風が吹いて来ていました.「ハハン,これがヒアラシなのか」と思いましたが,北西の風と比べて定量的な温度比較はできませんでした.
比良下ろしによる北西の風は,乾燥しています.ヒアラシの南風は,琵琶湖を越えてくるため湿っていると考えられます.この差によるものでしょうか.
タ-シさんの報告によると,北湖の水温は南湖よりも高いそうですね.11℃と6℃でしたか.いろいろ御教示下さい.
それとも,琵琶湖から吹いて来る風は,冷たく感じるだけなのでしょうか.
以上,幼稚ながら,正月に聞いた話を元に,今回のレポ-トを組み立ててみました.分からないことが数多くありますが,この辺で入力を終わりにしたいと思います.また何か新しいことが掴めたら,UPしたいと思います.長いレポ-トをお読みいただき,ありがとうございました.御意見,御感想よろしくお願いします.ヒアラシの勘違い,御迷惑をおかけしました.
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