かぶらぼしの風を求めて(1996年11月)

1996.11.湖鮎ネットにUpしたもの
琵琶湖地域環境教育研究会   松井 一幸

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#32392 AYU0169,1996-11-16 23:46:01[21] 近江気象湖鮎歳時記/ビワコダス
ビワコダス>かぶらぼしの風を求めて(1) <KOMATU

 先月の下旬にNHKのKさんから、電話が入りました。

Kさん 「彦根の松原では、11月から12月中旬にかけて、浜で赤かぶらが干されます。これは彦根の観光名物にもなっています。かぶらを乾かす風は、比良山から吹いてくる風ですか。」

   「いやー、比良から彦根に向かって吹く風は西風ですが、これは私たちのこれまでの研究からは考えられないことですよ。」

Kさん 「11月から12月の晩秋から初冬にかけて吹くこの風は、乾燥していてかぶらに良いということで、青島さんは、ヒアラシとも表現していますが、比良山から吹きませんか。」

   「私の所にもヒアラシはありますが、そんなにしょっちゅう吹く風でもないし、比良山から彦根へ吹く風は、観測していないので、なんとも言えません。都合の良い日を見つけて、松原へ出かけることにします。」

 このように返事をしておいたので、今日は午後2時過ぎから、北回りで彦根へ向かいました。今津や、マキノは時雨ていましたが、塩津からトンネルを越えて木之本へぬけると天気は大変よくなりました。

尾上の野鳥センターによって、荒北さんにお話をうかがったり、ビワコダス風観測システムを見せてもらったりしました。なかなか見やすい所に設置されていました。VBのプログラムが動いていました。計測機器の位置もなかなか良かったと思います。元気に観測をしていました。

 長浜や米原、彦根に向かう途中に、何度も車を止めて風向や風速を確認しました。伊吹山は8号目辺りまで雪化粧をしていました。彦根の手前の松原へ来ると、赤かぶらが浜辺に干してあるのが見えました。9段の杭と竹で作ったところに沢山の赤いかぶらがぶら下がっていました。車から降りると、比較的強い風が湖から吹いて来ています。「しる万」というお店の人にお話ができ、吹いている風がかぶらにとって非常に良い風であることを知りました。浜へ出ると、カメラを持った人が何人かいました。私は地図を広げて、風の 吹いてくる向きを正確に確認しました。対岸の状況、風の向き、波の様子、雲の様子、これらを詳しく観察しました。

 さて、今日の観察で、赤かぶらを乾かす風の正体を結論づけることができたのですが、どんな風だったのでしょうか。次回に私の得た推理と結論を述べたいと思います。

 帰宅したのは、7時前となりました。琵琶湖大橋付近がかなり停滞していました。途中彦根の県立大学へ寄って、屋根にビワコダス風向・風速計があるのを確認しました。彦根のこのデータが手に入ると、私の推理が正しいかどうかの裏付けができるのですが、首を長くして待つことにします。


#32410 AYU0169,1996-11-23 21:40:31[21] 近江気象湖鮎歳時記/ビワコダス
ビワコダス>かぶらぼしの風を求めて(2) <KOMATU


 ちょっと間があきましたが、前回の続きをレポートします。

 彦根の松原では今の時期になると、浜に赤いかぶらが干されている光景に出会います。松原の方ではないのですが、森島さんというお漬物屋さんが、乾かしておられるそうです。

 「かぶらぼし」は「ハサボシ」ともいうそうです。これは、NHKのKさんから、この前お聞きしました。かぶらは夏も終わりの8月末から9月初め頃に種を蒔くそうです。2月ほどすると、赤い野球のボールくらいのおいしいかぶらに成長するということですから、本当にこれは奇跡ともいえる自然からの有り難い恵みです。

 さて、この赤かぶらを浜で乾かすのに、季節の風を利用しているとのことでした。湖から来る風は、赤かぶらの皮を乾燥させるのに、もってこいの風ということでした。

 1週間前に松原を訪れましたが、この後、NHKのKさんから電話が入り、私が訪れた日に吹いていた風が「まさに恵みの風」だという連絡が森島さんから入ったということでした。ですから、この日に松原を訪れて、本当に価値があったと驚きました。

 さて、赤かぶらを乾かす風の正体とは、以下が私の結論です。

「初冬になると、季節風が日本海から若狭湾に入り、この風が今津やマキノの野坂山地を越えて滋賀県に入る。マキノ辺りでは時雨るが、高島郡北部に雨を降らせると、風は乾燥し琵琶湖を南東へと向かう。この天気は、彦根では時雨ず、伊吹山もよく見える。この一部が海津から30kmほど離れた松原の湖岸へ風速6m/sくらいの北西の風となって、押し寄せる。この風は温度が低く、ほどよく乾燥していている。」


 比良山から来る西(西南西)の風ではなくて、北西の季節風が「赤かぶら」を乾かす正体だったのでした。この風は、本格的な冬になると、野坂山地だけでは乾燥せず、滋賀県北部全体に雪雲を作ります。この風も、関が原や鈴鹿を越えると、濃尾平野では乾燥した風となって尾張に吹き下ります。これを岐阜や名古屋では「伊吹おろし」と呼んでいますが、大量に湿気を含んだ空気も伊吹や鈴鹿を越えると乾燥してしまいます。だから、初冬に吹く弱い季節風であれば、野坂山地で乾燥しても不思議ではないでしょう。松原を訪れた時には、今津では時雨ていたのに、木之本まで抜けると、晴れていたのには驚きました。

 文献「滋賀県の気象:彦根地方気象台編 平成5年10月」のP10によれば、彦根は北西と南南東の風が支配的であるとの風配図がありますが、彦根では四季を問わず北西の風がよく吹くようです。
 浜から西を見ると、当日もこの風に乗って多くのウィンドサーファーが楽しんでいました。

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