2002年10月1日(火)台風21号比良オロシ追跡編

2002.10.6. 琵琶湖地域環境教育研究会 松井 一幸

 台風21号の接近で10月1日(火)の夕方に比良山麓では湖西線をストップさせる程の強いオロシが3時間程度吹きました。地上観察とビワコダス風観測、インターネット気象情報を交えて、簡単にレポートしたいと思います。

 2002年10月1日(火)にビワコダス風観測で得られた風データと、北小松・長浜・栗東での毎時最大瞬間風速の変化を示します。




グラフが示すように、今回の比良オロシは北小松におけるダントツ(突出)型で、1日(火)の午後4時から7時頃まで強く吹きました。しかし、平均風速の最大値は午後6時の9m/s程度で10m/sを越すものではありませんでした。今回は比良オロシが収まってから湖北で風が強まっています。
下図はビワコダス北小松・栗東・長浜における毎時最大瞬間風速の時間変化を示します。北小松では20m/s近くまで強い風が吹いたのに対し、栗東や長浜では10m/s程度と弱い結果となりました。長浜では風の強い時間帯が北小松より遅れ、19時から22時頃までとなっています。これは台風による左巻きの風が中部山岳地帯に阻まれて近江盆地に入りにくく、彦根や長浜方面では若狭や敦賀湾方面からの風が遅れるためと考えられます。低気圧型や台風型の場合の比良オロシでは、等圧線が西に出た丸みを帯びているためこのような遅れが出ると考えられます。

デジカメにより観察した風の様子を見てみましょう。
台風が近づいた10月1日(火)早朝の小松浜は、雨が降り波はなく漁船が1隻漁をしていました。


高島郡今津町にある滋賀県立高島高等学校の2号館屋上から西の空を眺めると、饗庭野の向こうには風枕に相当する層積雲の速い雲の流れがありました。観測している屋上は風が殆どなく台風が関東に来ているというのに不思議でした。風の弱い様子は右端にある国旗の旗の様子からも見て取れます。西空の向こうは雲がないために夕陽が明るく輝いていました。


反対の東の空を見ると、大きな半円の虹が2本(主虹と副虹)出ていました。湖上では雨が降り、西日がこれを照らし鮮やかな虹を作っているのでした。この虹はあまり綺麗に写っていませんが、もう少し前の5時過ぎの虹は80歳のお年寄りが初めて見たというほど見事なものだったようです。


帰り道、奥比良には風枕、湖上には風下波動による層積雲があるのが、新旭や安曇川、高島からも見えました。明神崎を回って鵜川から南西方向を眺めると暗くなっていましたが、南比良にかかる風枕や湖上の風下波動による層積雲を確認できました。さらに、午後6時35分に帰宅すると志賀町の有線放送で、「午後5時40分に比良川で風速25m/sが観測され、JR湖西線は堅田-近江舞子間で運転を見合わせている。バスで代替輸送中」と報じられていました。この時、送電線のうなりは無く、北小松での比良オロシは大分弱くなっていました。


台風21号の軌跡を見てみましょう。台風21号は速度が65km/hと速く強風をもたらす超1級の台風となりました。気象庁の当初の予測通り関東へ上陸。その後東北東部から北海道へ北進しました。今回のオロシは台風の速度と関連して3時間程度と短いものでしたが、ダントツ型となりました。


1日(火)の3時間毎の地上天気図は以下のようになっています。上段は3時、6時、9時、12時で、下段は15時、18時、21時、翌日3時です。15時から18時は最も台風が滋賀県に近づいている時です。台風が南東にあり、等圧線が45度(北東から南西)に流れ、北西の比良オロシが吹くのは1つの形ですが、これらが全て直交関係にあるという経験則は面白い。


次に、www.imoc.co.jpから取得した午後4時,7時,10時の日本列島のアメダス風画像を見てみましょう。
午後4時は比良オロシが吹き始めた時間帯です。台風の中心は伊豆半島南にあることが周囲の風向きから分かります。この時刻では輪島は北東です。比良オロシが発生するときに輪島が北東である場合は数多く見られ、今回のように台風(または低気圧)が関東沖である場合は必ず見られるパターンと言える。
午後7時には台風は伊豆大島付近まで進んだように見受けられるが、この頃から比良オロシは急速に弱まったことになる。午後10時には台風は茨城県辺りに達し、輪島でも北西の風、西日本では西よりの風に変わっている。午後7時を過ぎると、丹波高原・比良山地を避けるように大津では南西の風、湖北では北西の風が強く吹いたことを、ビワコダス-アメダス風動画は教えてくれる
「低気圧や台風型では「比良オロシが時間的に早く吹き、遅れて湖北で北西の風が吹く」ことは中部山岳地帯の影響で理解できるし、また「強風といえども丹波高原や比良山地を迂回して風は近江盆地へ流入する」ことも今日の風動画を見て良く理解できる。
さて、比良オロシの最大瞬間風速がJRの比良川観測点では25m/sを越えたのに、ビワコダス北小松観測所では19m/s程度であったのは何故かという問題が出てくるが、一般に比良川観測点は田圃の中のJR高架部に設置されているのに対して、ビワコダス北小松観測所は北小松の集落の屋根の上に設置ということで、風が少し弱まることは容易に理解できよう。しかし、一般に比良オロシは北小松南部で強く、近江舞子では少し弱まるという経験則もある。比良オロシは志賀町を南へ下るほど弱まる地元での経験則がある。これは数量的に実証できていない。今後の課題である。観測点を増やせば解決できる問題である。






以上