上位蜃気楼の気温(t)・対象物距離(L)・境界層の厚さ(D)・観測目線高度(h)依存性
2016.01.25. 琵琶湖地域環境教育研究会 松井 一幸
上位蜃気楼は、上層が暖気・下層が冷気(上暖下冷)の境目の境界層の存在により生じます。
空中に漂う境界層付近では、温度が急激に変化するため屈折率の変化も大きく、光の経路は曲げられます。
この変化で普通見慣れている景色(実景)が、様々な異様な変化をもたらすことになります。
境界層が如何にして形成されるかは今後の研究を待ちますが、境界層は通常不安定で刻々変化をすると考えます。
蜃気楼をシミュレーションする時には、境界層の形を設定(モデル化)すると共に、境界層に対して景色(遠くの対象物)や観測目線の高さとの関係が重要になってきます。
境界層のモデル化では、①境界層の湖面からの高さ(H)と②気温と気温差(t)、境界層の厚さ(D)が最小限必要になってきます。
松井モデルでは、H,t,Dを境界層設定のパラメータとしました。
次に重要なのは、対象物までの距離(L)と観測目線の高さ(h)です。
さらに蜃気楼シミュレーションでは地球の丸さを考慮する必要があります。松井モデルでは、地球を半径(R)の球と考えています。
光の経路を求める(Ray Tracing)方法として、松井はホイヘンスの原理を用いています。
これまではレーンの幾何光学に基づく経路計算が用いられてきましたが、松井の方法は新しいと言えるでしょう。
何よりも地球の丸さが簡単に考慮できるという利点があります。
経路計算から得られる最大の成果は、蜃気楼曲線(Mirage Curve)です。
この図は、横軸が実景角、縦軸が蜃気楼角となっています。スケールは[分]で、[1分]=[1度/60]です。
湖面から水平に伸ばした軸をx軸、鉛直逆向きをy軸として、実景の時に見える対象物のx軸とのなす角を実景角、上位蜃気楼の時のx軸とのなす角を蜃気楼角と呼びます。
実景の時は、対応する蜃気楼角も同じで45度の直線となり、1対1に角度が対応します。
上位蜃気楼になると、実景角に対応する蜃気楼角が、一般に多価関数になってきます。このことにより蜃気楼の伸びや反転、頭打ち、縮みなどが起きます。
ここでは境界層の高さを一様と考え、5つのパラメータ(H,t,L,D,h)の4個を固定し、1つを変化させると蜃気楼曲線がどのように変化するかを調べてみました。
松井モデルでの上位蜃気楼曲線のパラメータ依存性
①境界層の高さ依存性_H
蜃気楼の形は境界層の高さに大きく依存します。
②気温依存性_t
同じ気温差では、低温の方が効果が大きと言えます。
③対象物までの距離依存性_L
対象物までの距離が遠いほど変化が大きくなります。遠くが同じような蜃気楼に見える場合には境界層が高いことが必要です。
④境界層の厚さ依存性_D
境界層の厚さが薄い時には、気温の高さに依る変化が大きいので、蜃気楼効果も大きくなります。
⑤観測目線の高さ依存性_h
蜃気楼の形は、観測する目線の高さに大きく依存します。これはまだ誰も観測で明らかにしていません。
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